ラブコール

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『万引き家族』はもうフィクションじゃない

延岡シネマで映画『万引き家族』をみてきました。

gaga.ne.jp

30代女性は祥太にくぎ付けに

冒頭で祥太(城桧吏)が映し出されたときに物語に引き込まれました。30代の私にはこの少年が、小学生だった私にとってキラキラと輝くアイドルだった今井翼と、高校生だった私に鮮烈な印象を残した『誰も知らない』の柳楽優弥とダブって見えたのです。

万引き家族』はフィクションか

重い、映画でした。まだ子どもだった頃にみていたのなら、私は『万引き家族』をフィクションとして見ただろう、と思います。かつて『誰も知らない』を無自覚にまるでフィクションとしてみたように。

それほど私は恵まれていたのだ、といまなら分かります。うちは決して裕福ではなかったけれど、いわゆる中流家庭でした。それなりに悩みやいろんな事情もあったけれど、それでも幸福に育ててもらったことが、自分が大人になり親になったいまとなっては分かるのです。

おそらく、私は息子に、自分が体験したようないわゆる中流家庭の生活を体験させることはできないでしょう。地元で名高い進学校や偏差値の高い国立大学を出たという経歴を持っていたって、一方で私は貧困と隣り合わせにいることを、よく知っています。

映画に詳しくない一親の感想

親としてできることって何だろうか。『万引き家族』の何が刺さったかって、おそらく多くの女性と同じです。信代(安藤サクラ)の涙です。ぬぐってもすりこんでもとめどなくあふれ出てくる涙を。彼女を尋問する警察官(池脇千鶴)の声を憎々しいような軽く絶望するような気持ちで聞いていました。「なんだったんだろうね」という言葉の裏側にある思いを、私は少し想像してしまったからです。

ゆり(佐々木みゆ)の手の平に塩を乗せる初枝(樹木希林)の姿。実の親のもとへ戻ってビー玉で遊ぶゆりの姿。「わざとつかまった」と告白する祥太。

陳腐かもしれないけれど、私は息子と抱き合い、笑い合い、私の力の及ばないところにある彼の力を信じ、共に生きていこう、と深く決めたのでした。